コラム
第19回「12球団 “クリーンアップ” 成績診断」


 チーム最強打者が配置されるべき打順はどこなのか?
 野球に携わる現場の人々からファンまでを巻き込む昔からあるテーマですね。日本のプロ野球の場合、「3番 or 4番」いずれかで語られる事が今も多いのではないでしょうか。昔は4番がチーム最強打者のポジションでありチームの看板とみなされることが多かったと感じますが、一方で20年ほど前くらいからでしょうか、MLBのトレンドを受けた3番打者最強論を唱える意見が近年では多くなっているように感じます。ファン同士の野球談義でこの類の話題となると、花が咲くかどうかは別にして小田原評定的にいつまでも結論が出ないのはよくある話ですね。これがまた楽しかったりするわけですが。(笑)

 さて、今回のコラムは、3、4番に5番を加えた”クリーンアップ”と呼ばれる打順の打撃成績がどれくらいチームの順位と相関しているのかを診てみようと思います。個々人の成績ではなく、打順としての3、4、5番の成績が攻撃の核としてどれくらい機能しているのかにフォーカスを当てます。
 そしてもう一つ、本診断を進めるとこれまでのステレオタイプに定石とされていた“ 3、4、5番=クリーンアップ” とは異なる思考に基づく戦略をとっている楽天の「2番打者を核とする打線」の試みも分かりやすく浮き彫りにされてきます。今回はその辺りにもフォーカスを当ててみようと思います。

 前置きが長くなりました。先ずはセ・リーグから。

セントラル・リーグ
5/9時点
  チーム成績 クリーンアップ(3、4、5番)打撃成績 打順別 先発試合数
※カッコ()内は先発試合数、赤字は全試合
  試合 総得点 打率 HR 打点 OPS 打点率
(打点/チーム総得点)
3番 4番 5番
阪 神 31 133 .292 10 61 .818 45.9% 糸井 嘉男 (31) 福留 孝介 (31) 原口 文仁 (21)
広 島 34 167 .295 14 58 .849 34.7% 丸 佳浩 (31) 新井 貴浩 (17)
鈴木 誠也 (17)
鈴木 誠也 (17)
松山 竜平 (9)
巨 人 32 111 .320 14 64 .885 57.7% 坂本 勇人 (32) 阿部 慎之助 (28) マギー (32)
DeNA 32 121 .280 11 53 .770 43.8% ロペス (20)
梶谷 隆幸 (12)
筒香 嘉智 (32) 宮﨑 敏郎 (16)
ロペス (12)
ヤクルト 32 101 .261 9 44 .703 43.6% 山田 哲人 (27) バレンティン (23) 雄平 (24)
中日 33 105 .255 9 38 .710 36.2% 大島 洋平 (16) ビシエド (19)
平田 良介 (16)
平田 良介 (16)
ビシエド (12)
 
リーグ平均 - 123 .284 - - .789 43.6%  

■セ・リーグ
 こうやってまとめて見ると、選手個々人ではなく打順としてのクリーンアップの成績とチーム成績との間には一定の相関があることが非常に分かりやすく見てとれますね。もちろん投手力を含めたディフェンスの要素は全く度外視しておりますので、あくまで一つの要素でしかないわけですが。

 現在Aクラスの阪神、広島、巨人のクリーンアップは、打率はおおよそ.300、OPS値は.800を越え、打線の中核となっていることが如実に現れた数字となっています。打点率(チーム総得点に占めるクリーンアップがあげた打点の割合)についても阪神と巨人は5割近い数字を上げております。
 但し、巨人の打点率が55%を超える非常に高い数字となっているのは、チーム総得点111(リーグ4位)に現れる通り、クリーンアップ以外での得点力の低さに起因していますのでこの辺りは今後の上位進出に向けた課題でしょう。
 広島については、クリーンアップ打点率が35%と低くなっていますが、これは打率.340(※5/10時点 リーグ3位 )、HR7本(同1位)、打点23(同4位)という、いずれもチームトップの成績をあげながら、開幕から6番でほぼ固定されているエルドレッドの成績が加味されていないことと、チーム総得点167(12球団トップ)からもわかる通り、クリーンアップ以外の打順でも得点力が非常に高いことが反映された数字である為です。つまり広島は不動の3番 丸 佳浩から6番 エルドレッドまでの4人が攻撃の核となりながら、それ以外の打順も得点力が非常に高いということなんですね。

 一方、Bクラスの3チームは、打率、打点、OPSいずれもAクラスのチームよりも劣る数字となっています。特に中日については、広島のような特殊な要素もない中で打点率36%という低調な数字となっており、明らかにクリーンアップの破壊力不足がチームの下位低迷の一因となっていることを物語っています。
 また、上記の“打順別 先発試合数”に目を向けても、中日以外のチームはクリーンアップを担う選手がある程度固定されていますが、現在下位に沈む中日は3、4、5番を担う選手が固定できず苦心している状況も見てとれます。

パシフィック・リーグ
5/9時点
  チーム成績 クリーンアップ(3、4、5番)打撃成績 打順別 先発試合数
※カッコ()内は先発試合数、赤字は全試合
  試合 総得点 打率 HR 打点 OPS 打点率
(打点/チーム総得点)
3番 4番 5番
楽 天 28 131 .240 6 32 .633 24% ウィーラー (25) アマダー (25) 銀次 (25)
ソフトバンク 33 140 .286 19 69 .908 49% 柳田 悠岐 (31) 内川 聖一 (33) デスパイネ (33)
オリックス 30 119 .293 10 38 .796 32% 安達 了一 (17) ロメロ (15)
小谷野 栄一 (9)
小谷 野栄一 (12)
T-岡田 (11)
西 武 30 134 .293 14 70 .803 52% 浅村 栄斗 (30) 中村 剛也 (29) 栗山 巧 (15)
メヒア (14)
日本ハム 32 96 .283 12 50 .836 52% 近藤 健介 (23) 中田 翔 (22) レアード (12)
ロッテ 31 83 .204 4 25 .591 30% 細谷 圭 (10)
清田 育宏 (9)
パラデス (11)
鈴木 大地 (10)
鈴木 大地 (12)
井上 晴哉 (8)
 
リーグ平均 - 117 .266 - - .761 40.0%

■パ・リーグ
 首位楽天の数字の違和感は後述するとして、2位のソフトバンクから5位日本ハムまでの4チームは、非常に分かりやすくクリーンアップの存在感が数字に表れていますね。オリックスの打点率が32%と低いですが、これは前述広島の理由と非常に似ており、T-岡田選手の成績が6番にいるため加味されていない為です。
 残り2チームの内、最下位のロッテについては、前述の中日と非常に似た状況です。新外国人が期待通りの結果を出せていないこと、昨年の首位打者 角中勝也が開幕早々にゲガにより2軍に落ちたことなどが主因となり、打線全体の最適な並びを今だ模索する状況が続きチーム全体が貧打に喘いでいるような状況です。

 さて、最後に今話題の楽天打線です。 “2番打者を核とする打線” で 旧来の “クリーンアップ(3、4、5番打者)= 打線の核” という概念を覆す試みが成果を上げている と世間では言われ始めています。これは本当でしょうか?具体的に数字で確認してみます。
 主にウィーラー、アマダー、銀二で構成される旧来のクリーンアップ(3、4、5番)の打撃成績は上図の通りです。確かに非常に分かりやすい数字が出てきていますね。(笑)打率.240(※5/10時点、 リーグ5位)、HR6本(同5位)、打点32(同5位)、打点率24%(同6位、12球団最低)といずれの数字を見ても現在首位にいるチームのクリーンアップとはとても思えない数字です。当初の想像以上に打線の中心・核を3、4、5番以外に移っていることが分かる数字となっています。
 では、巷で言われる “2番打者を核とした” の通り、1、2、3番の数字を同じように確認してみましょう

5/9時点
  チーム成績 クリーンアップ(1、2、3番)打撃成績 打順別 先発試合数
※カッコ()内は先発試合数、赤字は全試合
  試合 総得点 打率 HR 打点 OPS 打点率
(打点/チーム総得点)
1番 2番 3番
楽 天 28 131 .262 17 54 .832 41% 茂木 栄五郎 (26) ペゲーロ (28) ウィーラー (25)

 3、4、5番の数字よりは明らかに上がります。特に打点率41%の数字は、打線の中心が1、2、3番にあることを物語っています。しかし勝率7割を超える首位を走るチームの打線の核としてはやや寂しい数字ですね。なぜでしょうか?実はこの理由は非常に分かりやすく、3番打者として打率.197、OPS.546という低調な成績ながら開幕からのほぼ全ての試合でウィーラーを使い続けてきた結果なのです。ウィラーの成績を除外し、1、2番の茂木、ペゲーロの2人だけの数字ではOPS.900を超える数字でした。ちなみにこのOPS値は、チーム内の1位、2位の数字です。
 つまり楽天の“2番打者を核とする打線” は、実はまだ未完成の状態にあるということのようです。現在ブレーキとなっている3番に相応の数字を上げる選手を配すとさらに破壊力を増すことが予想されます。楽天首脳陣の当初の思惑はおそらく2、3、4番に助っ人外国人を連続で並べることによる相手投手陣への“圧”を武器にすることも思考していたのでしょうが、3番にはそろそろ数字をしっかり残す選手に切り替える頃なのかもしれません。いずれにせよ、今年の楽天の試みはまだ未完であり伸びシロを残している状態のようです。今後が大変興味深いですね。



~ 執筆余話 ~
■2番打者の今昔と今年の楽天
 日本のプロ野球においては、「出塁率の高い1番打者が出塁した際に送りバントや右打ちで得点圏に走者を進める」
 が基本的な2番打者の姿と定義され、時にそれに反する“送りバントを多用せず積極的に打たせる選手”をいわゆる“攻撃的2番打者”と呼んでいました。

 古くは1950年代 西鉄ライオンズ黄金期の豊田泰光。(古すぎますか。。)90年代では 日本ハム時代の小笠原道大や巨人 二岡智宏など。直近では2015年に首位打者となりリーグ制覇に貢献したヤクルト川端慎吾といったところでしょうか。この用兵は昔から意外と多く枚挙にいとまがありません。

 しかし、今季の楽天はそういった過去の“攻撃的2番打者”とは一線を画し、どちらかというと近年のMLBでのトレンドを取り入れたもののようです。
 セイバーメトリクスに代表される数学的、統計学的な分析に基づく論理的アプローチでの戦略立案が活発となっている近年のMLBにおいて“得点を最も多く上げることができる打順は?”というクエスチョンに対する解が “チーム最強打者(OPS最高値の打者)を2番打者に配すること” なのです。このトレンドの証左が、昨年のチーム最多の39本塁打、打率.292、102打点の成績を上げ、ワールドシリーズ制覇に貢献しナ・リーグMVPにも選出されたカブスのクリス・ブライアント、そして同年、打率.315、29本、100打点の成績を上げア・リーグMVPに選出されたエンゼルスのマイク・トラウトといった選手達です。皆2番打者でした。野球の母国である米国のMLBでは近年、” 2番打者最強論“がトレンドとなっているんですね。
 今年の楽天の試みにより、日本のプロ野球で長く続く”クリーンアップ”の定義が変わる日が来るのでしょうか。注目したいと思います。
2017.05.15
to landing site